

撮影:渡邊修
Photography: Osamu Watanabe
羽田空港の対岸にある城南島に完成したばかりのリサイクル工場で、刀根康尚、クリスチャン・マークレー、近藤一弥、ポル・マロ、710.beppo、平倉圭がその〈場〉を前提にした作品を発表した、2005年開催のアートプロジェクト「Variations on a Silence ──リサイクル工場の現代芸術」。
SETENVが企画からキュレーション、設営、広報までプロジェクトに関わる一連の業務を担当し、サウンドアートやインスタレーションなどの展示の他、ライブパフォーマンスやアーティストトーク、レクチャーなどを行い、リサイクル工場という空間の持つ現代性を各アーティストの表現を通して多角的に検証しました。
今回、参加アーティスト、関係者、ボランティアスタッフとしてサポートしてくださった方々、ご覧いただいた方々の声を集め、「Variations on a Silence ──リサイクル工場の現代芸術」がどのようなものだったか、その多様な姿が浮かび上がってくるようなアーカイブを目指しています。
「完成直後のリサイクル工場で何かできないか」と声をかけられたことから全ては始まった。
設計プランを聞き、実際の建設予定地に足を運んで出した結論は、その工場でエキシビションを行うというものだった。東京湾の人工島に立地する特徴的な工場空間、そして対岸には羽田空港が位置し、飛行機が頭上をかすめて行き来するというランドスケープ/サウンドスケープのただなかで、その強烈な物理的・社会的環境とアーティストたちの創り出す作品とが干渉し、多様に響き合う〈場〉になることを目指した。
私たちSETENVからアーティストに伝えたのは、そのような環境を前提とし、この場所を意識した作品にしてほしいということのみだった。主に使用済みの電子機器から金属を回収するリサイクル工場である。アーティストは、実際に稼働している既存のリサイクル工場を見学し、建設現場にも足を運び、継続的にやりとりを重ねながら作品を準備した。リサイクル工場とアーティストの邂逅、ストレートではあるが、それが本プロジェクトの核である。
今後の寄稿予定
宇川直宏/門林岳史/金子智太郎/坂口千秋/佐藤李青/田中純/畠中実/福澤恭/三田良美/南隆雄/毛利悠子/若林恵 他
*敬称略/五十音順
comments
東京都現代美術館でクリスチャン・マークレーの作品と再会し、あのときは頭で理解していた作品を、ようやく身体で理解できるようになったと感じた。
振り返ってみると、ポル・マロのアロマの香りも710.beppoの振動も現場で体験するもので、Variations on a Silenceはそんな身体で反応する展覧会だった。
今でこそ美術館ではない空間での展示や、メディア・アートと呼ばれるような作品にも馴染みがあるが、当時の私にとっては新しい世界と出会ったような感覚だった。
あの場での経験から今に繋がることがたくさんある。人と作品との出会いを作ること、見て考えるよう促すことは今も変わらないテーマであり、これからもずっと続けていくと思う。今の私だったら、どんなツアーができるだろうか?
リサイクルという概念はマークレー作品の総体にかかるものではないかと思う。割られたレコード、映画のシーンの数々、切り抜かれたマンガのオノマトペなど、マークレーの作品を総覧していると、文化という現象のなかで渦巻いている創作と破棄、そして再生のうねりを巨視的に目撃しているかのような感覚に襲われる。わたしたちの体も、常に膨大なノイズを吸収し、忘却しながら、常に意味をリサイクルし続けている。その一連の過程をある種の翻訳行為とみなす「トランスレーティング」展の最初のセクションで、2005年にリサイクル工場で展示された「Variations on a Silence」の作品群が並んでいたのは、とても象徴的に感じられた。